CFOとはChief Financial Officerの頭文字をとった略称で、日本語にすると最高財務責任者です。
具体的には財務・経理に関する戦略立案から実行までの責任者として経営にかかわる人です。
つまり、会社のお金にまつわるあらゆることに責任を持った経営陣のひとりと言えます。
CEO(Chief Executive Officer)の右腕と言われることもありますね。
では、CFOになるためにはどんなスキルを身に着ける必要があり、そのためにどのような経験をすればいいのでしょうか。
この記事では、監査法人や事業会社でファイナンス関連の仕事をし、IPO経験もある筆者が、様々なデータを使って解説いたします。
- CFOっていったい何をする人?
- CFOってどうやったらなれるの?
- CFOってどんなスキルが必要なの?
CFOについて調査してみた
ここからは、上場会社のCFOについて調査し、分析していきます。
2021年に日本取引所グループに新規上場(IPO)した会社の数は123社でした。
IPOする会社は新規上場申請のための有価証券報告書(1の部)という書類を提出します。
そこに経営陣の経歴が載っているので見てみましょう。
CFOという肩書を使っているのは?
取締役としてCFOや管理本部長といった役職についている人は104名います。
約85%の会社で取締役として財務・経理に携わる人がいますね。
やはり経営陣のひとりとして重要な職責を負っていることがわかります。
取締役以外の場合でも取締役に次ぐ執行役であることがほとんどです。
IPOの際には管理担当の取締役もしくは執行役の存在が不可欠だと言われるのがよくわかりますね。
役職で使っているのはCFO24社、管理本部長32社、管理部長12社、経営管理本部長9社などとなっています。
必ずしもCFOという役職にこだわっている会社は多くないですね。
本ブログでは役職にこだわらず、取締役である104名の方をCFOと呼ぶことにします。
これから、104名について、1の部の【役員の状況】を見てみましょう。
CFOのIPO時の年齢は?
まずは、IPO時点の年齢を見てみましょう。
40代が最も多く、続いて50代、30代と続きます。
CFOに適した年齢があるわけではないです。
ただし、20代は一人もおらず、それなりの経験が必要なポジションと言えますね。
CFOの平均経験社数は?
では、それぞれの年代での平均経験社数はどのくらいになっているでしょうか。
やはり、年齢が低い方が経験社数は少ないです。
全体平均だと3社の経験があるということです。
様々な経験を経てこのポジションに行きついたのでしょうか。
一方、まったく転職経験のない人はたったの3名(すべて40代)でした。
私もそうでしたが、転職の際にIPOを目指している会社に転職したいということはよく聞きます。
IPOを目指している会社のCFOになるために複数の会社での経験は大きな武器になると考えられます。
IPOした会社での社歴は?
年代別のIPOの会社での社歴はどうなっているでしょうか。
つまり、入社からIPOまでどのくらいの期間を要したかということです。
全体の平均は5.7年となっています。
年代別の社歴を見ても年代間で多少のバラつきはありますが、一定の年数はかかります。
40代には転職経験のない人(3名)がいましたが、その方達を除けば平均6.2年となります。
IPOを目指している会社に入社したとは言え、そんなすぐにIPOができる訳ではないということがわかりますね。
CFOの経歴
さきほどの104名について経歴はどうなっているでしょうか。
まず、主な経歴を4つの業種に分けてみました。
CFOへのステップとして代表的な業種は事業会社、金融機関、コンサルティング、監査法人があげられます。
経験した業種の人数
まず、どの業種の経験が多いでしょうか。
※経験した業種をすべて集計しており、ひとりで複数の業種を経験した方もいるため、合計は100%を超えます。
104名のうち、事業会社は75%、金融機関は33%、監査法人は19%、コンサルティングは8%となっています。
やはり、事業会社での経験が一番多いですね。
続いて、金融機関、監査法人と続きます。
やはり、事業会社での実務経験というのがCFOには最も近いのかもしれませんね。
私は監査法人出身ですが、監査法人経験者はCFOのポテンシャルとしては非常に高いものがあると感じてます。
複数の業種を経験しているか
続いて、IPOの会社へ入社以前に複数の業種経験のある方は34名。
最も多い組み合わせは金融機関と事業会社で21名。
しかし、複数の業種を経験した人はわずか32%に過ぎませんね。
CFOになるために、複数の業種を経験することはプラスになると思いますが、必ずしも必要という訳ではなさそうです。
ここまで、IPOを達成した会社のCFOについての経歴などを見てきました。
やはり、経験をもとにCFOとしての役割を期待されて転職した方が多いのではないかと想像しました。
IPOを目指した会社に就職しようとするインセンティブについて少し考えてみました。
最も大きなものとしては金銭による報酬ですね。
報酬については別の機会でCFOの転職事情を調査したときにお話しします。
次に考えられるのが株式による報酬です。
会社が上場した時に株価の値上がりによるキャピタルゲインが見込める株式や新株予約権の所有は大きなインセンティブになります。
IPO後の一定期間は株式を売却できない期間があるので注意しましょう。
株式上場の際に会社の株式や新株予約権を所有しているかどうか調べてみました。
※項目に当てはまる人をすべて集計しているため、合計は100%を超えます。
株式を所有している人50%
新株予約権を保有している人78%
どちらも保有している人38%
やはり、最も多いのは新株予約権です。
多くの会社で株式によるインセンティブプランを採用していますね。
IPOを目指した会社に転職する際にはインセンティブプランについても確認しておいた方がいいですね。
CFOに求められるものとは?
では、実際会社がCFOに求めることはどういったことでしょうか?
CFOの役割は会社の規模やフェーズによって大きく異なります。
今回はIPOの少し前からIPO後のステージの会社を想定してお話しします。
IPOの準備を始めた会社は一定の資金調達はできており、会社の収益は安定していることが想像されます。
成長が期待される会社は赤字でも上場できることがありますが、多くはありませんね。
通常、IPOをしたいと決めてからIPOの達成までに少なくとも3、4年はかかります。
先ほどのCFOの皆さんもIPOまでに平均で5.7年を要してますね。
私も経験がありますが、IPOまでに様々な課題に直面して大変だったことかと思います。
CFOが持つべきビジネススキルとは?
CFOとは財務・経理に関する戦略立案から実行までの責任者として経営にかかわる人です。
そのCFOに求められるビジネススキルは3つ。
- 経営者としての視点
- コミュニケーションスキル
- 財務・経理に関する専門知識・実務スキル
経営者としての視点
CFOは経営陣のひとりで、CEOと共に会社を支える重要なポジション。
自社の状況だけではなく業界の動向なども分析し、経営課題を把握することが重要です。
特にIPO後は投資家から「いかにして企業価値を高めるのか」を問われることがあります。
企業価値を高めるために経営に関する深い知識が求められることもあります。
日ごろから経営陣のひとりとして財務・経理にとどまらず、高い視点で情報収集することが重要です。
コミュニケーションスキル
CFOは財務・経理に関する戦略計画の立案にあたって、
CEOに対して臆することなく意見できるようなコミュニケーションスキルが求められます。
また、金融機関や投資家に対し計画の説明をしなければいけないこともあります。
さらに計画を実行するためには関係する社員にわかりやすく伝えるコミュニケーションが必須です。
社内外の人たちとの間で信頼関係を構築し、計画について安心感もってもらえるようコミュニケーションを行うことが大切なスキルだと言えます。
財務・経理に関する専門知識、実務スキル
優れた財務・経理に関する戦略を企画・実行するためには、その専門知識や実務スキルが必須です。
その範囲は多岐にわたるため、まずは業務を通常の業務とそれ以外に分けてみましょう。
月次決算、四半期決算、PL予測、予実管理、資金繰り、銀行対応、監査法人対応、IR(株主・投資家対応)、内部統制の構築・運用
予算作成、中長期計画作成、資金調達、M&A、IPO
これらの業務はCFOが直接実行することはあまりないと思いますが、マネジメントを行う上で必要な知識です。
特に会計やファイナンスに関しては深い知識や経験を備えておく必要があると思います。
CFOとなる人材の特徴
先ほど、IPOを達成したCFOの経歴を4つの業種に分けましたが、それぞれの特徴を見ていきましょう。
事業会社
事業会社での経験はCFOへの近道かもしれません。
なぜなら、CFOに最も近い位置で仕事が出来る環境であり、実務経験が期待できるからです。
ただし、会社にCFOとなるような方が存在せず、経験値として期待できるものが見込まれない場合は難しいかもしれません。
しかし、事業会社での財務・経理や経営企画などの経験は大きな武器になります。
CFOが見るべき範囲は多岐にわたるため、様々な業務を経験することをおススメします。
金融機関
金融機関といっても、銀行、証券、保険など様々な業種に分かれていますね。
それぞれ経験できることは異なりますが、多くの会社の財務状況を見て、財務分析などの経験は大きく役立つことが考えられます。
営業で経営者との交渉を行うことはコミュニケーションスキルの向上に役立つことでしょう。
投資銀行の出身者は資金調達などの場面においては大きな貢献が期待されます。
コンサルティング
コンサルティング出身者は会社の課題抽出から課題解決のための施策の立案・実行を得意とすることが多いですね。
実際、経営者と課題に対して議論を交わしたことは大きな経験となります。
また、経営全般からファイナンス・人事・IT・マーケティングなど様々な分野においての知見を持っていることが期待されます。
CFOとしてはファイナンスや経営戦略に関連する業務の経験は大きな武器になりますね。
監査法人
上場会社を中心に様々な会社の決算や開示業務に関われることは大きな経験になります。
さらに監査法人ではIPOやM&Aなどの関連業務に就くチャンスもあり、更に経験値としてプラスになります。
監査法人の経験だけではCFOの即戦力とはいきませんが、
私も監査法人で様々な経験をしたことが今に活かせていると思っています。
CFOに必要な知識をどのように身につけるのか?
先ほど、CFOは会計やファイナンスに関する深い知識を備えておく必要があると述べました。
CFOになるために必須な資格はありませんが、
では、このような知識はどうやって身につけることができるのでしょうか。
代表的な検定や資格試験をご紹介します。
簿記検定
簿記は会社のお金の流れを帳簿に記録するためのルール。
会計知識は「ビジネスの共通語」とも言われるように、社会人として持っておくべき必須のスキルです。
簿記を正しく理解すれば経営管理や経営分析もできるようになります。
簿記検定にもいくつかあります。
- 日商簿記検定
- 全経簿記能力検定
- ビジネス会計検定
最も規模が大きいのが日商簿記検定。
日商簿記は3級、2級、1級に分かれており、1級が最も難易度が高くなります。
コロナ禍で受験者数は減っていますが、それぞれの合格率は次のとおり。
・3級:50%前後(1回あたり受験者は5万人前後)
・2級:20~30%前後(1回あたり受験者は2万人前後)
・1級:10%前後(1回あたり受験者は1万人前後)
FASS検定
経済産業省が開発した「経理・財務サービス・スキルスタンダード」をもとに、実務能力の測定を目指した試験。
日本CFO協会が実施している検定です。
経理・財務分野における客観的な実務知識・スキルの習得度を測る検定試験です。
合否ではなく総合点から5段階のレベルでスキル評価し、分野毎の達成度合いも表示します。
試験は資産・決算・税務・資金の4分野から構成されています。
「簿記検定」では測りにくい実務能力を測ることができることから注目されています。
FASS検定の受験データは次のとおり。
プロフェッショナルCFO資格試験
企業財務の様々な課題を解決できる専門知識を身につけていることを証明する資格試験。
こちらも日本CFO協会が実施している試験です。
次のような財務に関する幅広い知識が求められます。
1. 財務理論に関する基礎知識
(企業財務の最新動向、キャッシュフロー経営、リスク・リターンと資本コストほか)
2. 経営計画と財務マネジメント
(企業価値評価、財務上の課題認識と解決手法ほか)
3. 企業価値評価と経営への応用
(経営計画、リスク管理、企業の成長と戦略的経営計画実施までのプロセスほか)
4. 財務面での課題解決手法とその応用
(資本構成の最適化、不要投融資の処分、事業ポートフォリオの最適化、固定資産の流動化ほか)
受験データは公開されていないため、難易度の判断はできませんが、財務の知識を深めるにはいいと思います。
まとめ
これらの検定や資格を持っていることはスキルの裏付けになります。
しかし、それだけではCFOという業務が務まるわけではありません。
実務の中で様々な経験をしないと、結局はただの知識レベルで終わってしまいます。
大切なのはそのスキルや経験を活かしながら、積極的に経営に関与することが重要だと考えます。
この記事を読んで少しでもCFOに対する興味を持っていただけると幸いです。